一年の間にこんな機会は何回あるだろう。
旅暮らしの自分は、それこそ毎月のように新しい店との出会いがあり、
変化を自分に課している部分が多いにあるが、
ひとところで暮らす人にこそ、
気に留めておいて欲しいことがある。
知らない街で珈琲を飲むこと。
できれば窓際の席がいい。
通りを行き交う人を眺めるだけで、
人それぞれには、それぞれ生活があるという、些細な気づきを実感できる。
チェーン店でもかまわない。
珈琲の湯気の中で思い出す人がいれば、心の中だけで手紙を書いてみてもいい。
空港のカフェで。
フェリー乗り場の待合室で。
地下鉄の前のキオスクで。
移動中に呑む珈琲は、人生のある瞬間を心に射止めてくれる。
忘れられない景色。
子供のときに見た、山の奥の大木に、
精霊が宿っている気がしたこと、
海に沈む夕焼けの色があまりにも鮮烈だったこと。
大人になってから瞬間の記憶は、
アルコールの吐息の中で朧気な頭を辿る朝。
一杯の珈琲が、自分とこの世とを繋ぎ止めてくれたりもした。
知らない街に行こう。
そこが地元の人に会いに行こう。
感じのいい店をみつけたらフラっと入り、一杯の珈琲を注文してみよう。